合同会社サンシャイン・ラボ 代表の松原です。
これまで「おいしい建築とは何ぞや?」という話をしてきましたが、おいしい建築をつくる上での隠し味的な役割を果たすのが「陽のまど」です。弊社のホームページで陽のまどの効能について掲載していますが、もう少し詳しくお話したいと思います。
陽のまどの第一の効能として朝の室温を挙げました。これをお読みの皆様が、どのような家にお住まいかはわかりませんが「朝起きた時に温度計の表示が一桁代だった」なんて寒い部屋で暮らされている方も多いのではないでしょうか?
このような部屋で起きて最初に行う事は、暖房器具のスイッチを押す事でしょう。そして部屋が暖まるまで布団の中で待機していて、30分くらい経ってから家事を始めるという感じではないでしょうか。
以前、このブログで「おふくろの味=味覚の原点」という話をしました。その人の温熱感覚は味覚と同じで、生まれ育ってきた環境によって価値観が変わるという内容です。
若い世代の方だと、生まれた時から高気密・高断熱の家に住んでいて、朝がつらいという経験を知らない方もいるかもしれませんが、昔は温暖地に建つ家ほど「断熱」という考えがなかったので「冬なんだから寒くて当たり前」という感じで暮らしていました。私が静岡県浜松市に移り住んで30年になりますが、こちらに来たばかりの頃の建築現場で大工さんに「壁に高性能グラスウールを100mm入れます。」と言ったら「ここは北海道じゃねぇ。浜松だ。」と呆れられてしまいました。当時は温暖な浜松に断熱材なんて不要というのが当たり前だったのでしょうが、決して暖房なしで暮らせるほど暖かい訳ではありません。昔ながらの価値観が更新されないと快適には程遠く、そのために無駄なエネルギーを使い続ける事になってしまいますが、現在では浜松でも建物の断熱性能を謳う建設会社は多くなりましたね。
朝がつらくない環境を当たり前につくる
朝がつらくない環境にするのは、前述のように起きる時間に合わせて暖房すれば済むことではありますが、光熱費が高騰している昨今では、エアコンのボタンを押すのが憚られるかもしれません。そうすると「我慢」という選択しかなくなってしまうので、これを避ける方法を講じるべきでしょう。
私たちが提案する「陽のまど」は、毎日コツコツ太陽熱を集めて家に貯める仕組みなので、建物に保温力があれば次の日の朝まで室温を保持することができます。その一例が下のグラフで、以前にご紹介した入政建築さんのSukura3の計測データですが、大寒の頃の午前4時の時点で外気温が1℃、室温が17℃という状況でした。この温度は前日の昼間に集めた太陽熱と建物の保温力により保持されたものです。23日の夕方から夜にかけて暖房していたようなので、これがなかったらもう数度は下がっていたかもしれませんが、他の日のデータを見ても15℃を切る事はありませんでした。因みにソーラーが導入されていないAisu roomの室温は10℃ですから、その差は歴然ですね。
室温が17℃あっても実際にはこの時間からタイマー運転で暖房していますから、この家の住人にとって17℃では足りていないという事なんだと思いますが、室温10℃で目覚めるのと17℃で目覚めるのであれば、身体にとっては明らかに後者の方が楽でしょう。お金が掛からない熱源を利用していますから「勿体ない」と思う必要もありません。
太陽熱という無尽蔵で無料のエネルギーを自分たちの暮らしに取り入れる仕掛けを持つという事は、冬の朝の目覚めの質を大きく変える事になると思います。