陽のまどの効能(その6)

味を究める

合同会社サンシャイン・ラボ 代表の松原です。

台風10号が日本列島に接近してきているので、昨夜から浜松でも凄まじい勢いで雨が降っています。午前0時過ぎに何回緊急避難指示のアラートが鳴ったことか。よくもまあこんなに大量の水が空の上にあるものだと思ってしまいますが、台風はこれからが本番ですからね。被害なく通過してくれることを祈るばかりです。

陽のまどの効能(その6)は、体感温度の話をしたいと思います。

合同会社サンシャイン・ラボ ホームページより

「陽のまどの効能(その3)」で頭寒足熱の話をした際にも登場した「体感温度」ですが、一般に「室温」と言えば温度計に表示されている数値を見て判断しますが、その部屋に身を置いていると床や壁、窓、天井などから輻射熱を受けているので、それらも含めて「心地よい」とか「不快である」といった感覚を持つことになります。更には湿度や風速、着衣量や作業運動量も影響するので話が複雑なのですが、ここでは快適な温熱環境をつくる上で陽のまどがどのような役割を果たすのかという事をお話ししたいと思います。

快適とは?

「快適」とは、暑くも寒くもない丁度よい状態の事を言います。夏だと25~28℃くらいで、冬だと17~22℃くらいと言われていますが、性別や年齢によっても感じ方は異なります。この「快適」を得るには、いくつかのアプローチの方法があります。例えば↓のように空調設備によって「快適」を得るというのは、最も一般的な考え方かもしれません。街中で見かけた住宅会社のモデルハウスですが「エアコン1台で家中快適!」とは、どんな事をしているのでしょうね?できればエアコンを使わなかった時にどんな住み心地になるのかも公開して欲しいと思います。

「陽のまどの効能(その5)」で書きましたが、単に空調設備だけに快適を委ねるのではなく、まずは建築の環境を整える事が重要で、それにより空調設備本来の能力が発揮されて、より効率よく「快適」が得られると思うのです。

自然室温で暮らせる家をつくろう!

陽のまどの前身の「びおソーラー」の時代から、私たちはこのソーラーに取り組む目的を「自然室温で暮らせる家をつくろう!」と言ってきました。自然室温とは、暖房も冷房もしていない自然な状態の室温を言います。この自然室温が前述の快適温度範囲に入っていれば、その時は暖房も冷房も不要ということになるので、年間を通じて自然室温で暮らせる時間をできるだけ多くしたい。そのために建築はどうあるべきか?という事を考えてきました。

荏原さんのシミュレーション

「荏原さんって誰だよ?」って思われるでしょうね。荏原さんは私がOMソーラーに入社した当時、研究部門のトップだった人で、OMソーラーの温熱シミュレーションプログラムの開発をされました。
荏原さんとはもう30年以上のお付き合いになりますが、今でも困ったことがあると相談にのってもらうという関係を続けていただいています。その荏原さんがつくられた空気集熱式ソーラーの効果も含めた温熱シミュレーションプログラムでは、1年を通じて快適温度範囲の自然室温がどれくらい得られるかを計算で求める事ができます。それは「自然室温達成率」という数値と「コンターマップ」という図で表現されます。「コンターマップ」について詳しく説明しましょう。

【シミュレーションモデル】 
建築地:静岡県浜松市 
構造:在来軸組工法2階建・延面積:101.83㎡(30.8坪)
集熱条件:南向き・4寸勾配屋根 横型集熱パネル4枚 ソーラーファンボックス1台

【コンターマップの読み方】

コンターマップは図の左端が1月1日、右端が12月31日で365等分されています。
縦軸は一番下が午前0時で中央がお昼12時、一番上が24時で1時間刻みになっており、その日の1時間毎の平均温度が色で表現されています。静岡県浜松市の外気温のコンターマップは↓のような感じです。

1.断熱等級4の家

ソーラー無の家(自然室温達成率:40%)

ソーラー無の家のコンターマップ

ソーラー有の家(自然室温達成率:58%)

ソーラー有の家のコンターマップ

冬場にソーラー有の家は、低温を示す青色部分が少なくなり、快適温度帯の黄緑が増えている事がわかります。また夏場は、夜間外気取入れの効果により深夜から朝方にかけての時間で30℃を超える部分が減っています。
コンターマップ全体を見た時に快適温度である緑~黄色の面積が多いほど、年間を通じて自然室温だけで暮らせる時間が多いという事になります。

2.断熱等級5(HEAT20 G1)の家

ソーラー無の家(自然室温達成率:70%)

ソーラー無の家のコンターマップ

ソーラー有の家(自然室温達成率:84%)

断熱等級4の家と比べて快適温度帯の面積が増えました。一方で夏場の室温がかなり上がっています。「高断熱の家にすると冷房の効きが良くなる」と言いますが、冷房していない自然室温の状態では高断熱化する事で厳しい状況になってしまうのです。エアコンを連続運転させたくなる気持ちはわかりますね。しかし「陽のまどの効能(その5)」で述べたような建築的工夫により「暑いけど我慢が出来ないほどではない」くらいの環境がつくれたならば
エネルギー多消費型の暮らし方から脱却できるかもしれません。

3.断熱等級6(HEAT20 G2)の家

ソーラー無の家(自然室温達成率:82%)

ソーラー有の家(自然室温達成率:96%)

断熱等級6に陽のまどを加えると青い部分がほとんどなくなりました。しかしこれが到達目標なのかと問われれば、私は「そうではない」と答えるでしょう。エアコンによる空調を前提とするならば、等級4のような温度変化が大きい家よりもこちらの方が効果的だと思うのですが、元々エアコンが嫌いという人もいるし、光熱費が高騰してきている中で電気代が恐ろしくてエアコンの掛けっ放しはできないというような経済的な事情も踏まえると、安易に「等級6にすべき」とは言えないです。もちろん地域性がある事なので浜松のような温暖地ではの話ですが、断熱性能を高めるのにもお金がかかるので、ハウスメーカーや工務店の言いなりではなくて、施主自身がしっかり考えて判断して欲しいと思っています。

おいしい家に住もうよ!

シミュレーションの話が長くなりましたが「自然室温で暮らせる家」をつくるためには、陽のまどは欠かせない調味料です。もちろん陽のまど無しでも家は建ちますが、有った方が味がグンと良くなるでしょう。
住み心地の良い家を「おいしい家」と呼んでいるのですが、これから家づくりをされる方には、是非そういう家に住んでいただきたいです。世の中には格好は良いけどおいしくない家もたくさんありますから、住宅展示場や見学会へ行かれる際には、レストランンへ美味しい食事をしに来たつもりで味わいながら見学されると良いと思います。

性能より使い方が大事

今回取り上げた断熱性能の話ですが、等級を上げたら快適になるという意味ではありません。断熱・気密の大切さはこれまでにもブログの中でお伝えしてきていますが、省エネを目指してつくったはずの家でエネルギー多消費な暮らし方をさせてしまうようでは意味がない。エネルギーを極力使わずに快適に暮らせる家を作り手だけでなく、住まい手も一緒になって実践する事が何よりも大切だと思います。
突然車の話で恐縮ですが、トヨタのハイブリッドカー・プリウスはエコカーの代名詞ですが、プリウスを所有すればエコか?と言えばそうではなくて、プリウスが持っている能力を活かすような走り方をした時に初めてエコになるわけで、一番大切なことは「モノ」ではなくて「使い方」なのです。
国が目指す環境問題やエネルギー問題への対策は、新しい技術(モノ)を投入する事でCO2削減や省エネ化を図ろうという発想なのですが、本当に重要なのは「エネルギーの使い方」を見直させる事ではないかと思うのです。だって小学校の算数の授業で「減らしたいときは引き算をすればいい」と習いましたからね。しかし50年も前の話なんで、今時の学校では「足し算して減らす」という事を教えているのかもしれませんが、それって難しくないですか?

未来的なデザインのプリウス! どう未来へつなぐ?