合同会社サンシャイン・ラボ 代表の松原です。
前回は「ダクト接続ボックス」についてお話しました。その中で「外付け棟ダクト」という部材が登場しましたが、今日はこれについてお話しようと思います。と言っても、現在の「陽のまど」には使っていない部材なんですが、陽のまどの集熱パネルの原点は、今から26年前に考案した「外付け棟ダクト」なのです。少し思い出話にお付き合いください。
進化した木の家。
2000年頃にOMソーラー協会から「進化した木の家」という企画型住宅が発表されました。1994年にスタートした「フォルクスハウス」のシリーズで「フォルクスF」と呼ばれるものです。私はこの開発プロジェクトのメンバーに選ばれて、主にOMソーラーに関する部分を担当しました。

↑は、2000年に出版された「進化した木の家」のムック本ですが、この中に私も登場しています。この建物の話をすると長くなるので「外付け棟ダクト」のことに絞ってお話します。
フォルクスFの構造躯体は、SE構法をベースとした在来軸組工法で、集成材によるガッチリしたフレームに断熱パネルを外張りするという構成でした。棟周りの納まりを思い出して図にしてみましたが↓な感じだったと思います。
標準の登梁のせいが300mmあり、その下面に半円形棟ダクトを取付けると長いスリーブダクト群を集熱パネルと接続しなければならないという非現実的な納まりになってしまいます。集熱パネルも棟からかなり下がった位置に設置されることになるので、従来の仕様ではスマートなOM集熱面にならないと思いました。

ここで思いついたのが、棟ダクトを屋根上に設けるという方法です。集熱ガラスの間口寸法と同じ長さのダクトを棟部分に設けて、これに集熱空気を集めるようにする。そしてこのダクトの中央部から屋根を1ヵ所だけ貫通してダクトを室内に入れるようにすれば、OM集熱面の納まりをスッキリまとめることができると思いました。また従来一週間近く掛かって施工していた集熱面工事を大幅に短縮することも出来るでしょう。
ただこれまでにこのような発想をした人がいなかったので、実行するのには勇気が必要でした。小屋裏ならば風で集熱温度が下がってしまうという心配はありませんが、外に出せばダクトがもろに外気に晒される事になります。風雨にも耐えつつ、集熱温度の低下を最小限に抑えつつ、施工の手間がかからない方法を考えなければなりません。
高性能断熱材との出会い
外付け棟ダクトの事を考え始めた頃に断熱材に関する有力な情報を耳にしました。断熱材や吸音材などを手掛ける日東紡が、新しいフェノールフォーム断熱材を開発したとの事で、発泡系断熱材の中では断トツの断熱性能、不燃性能を持っているという話でした。「これは使えるかもしれない」と思い、早速日東紡にコンタクトを取り、福島県郡山市の製造工場を訪問しました。まだ販売を開始する前の最終試作段階という状況でしたが、この断熱材の特徴や物性、製造方法などを詳しく教えてもらい、こちらが考えている事についても断熱材メーカーの立場から助言をいただきました。「この断熱材があれば、外付け棟ダクトは実現可能だ」という自信が持てたので、これをベースに仕様を考える事にしました。
ダクト断面積と通気抵抗
従来の半円形棟ダクトは、直径500mmのグラスウール製ダクトを半割にした大きさがありました。もしこのダクトをそのまま屋根上に設置したならば、何とも奇妙なデザインになった事でしょう。外付け棟ダクトの形状や大きさを決める際に過去のOMの技術資料などを調べましたが、半円形ダクトを考えたのは誰だったのか?何故この大きさにしたのか?など、根拠になるものは見つかりませんでした。これが当たり前の形であって、誰も変えようとした人がいなかったということです。そんな状況でしたから外付け棟ダクトに対する否定的な意見が耳に入ってきましたが、フォルクスFにおいては、この方法しかOMを成立させることは難しいと思ったので、自分の考えのまま進めました。
あまりダクト断面を大きくすると棟廻りが巨大になって不格好になってしまいますから、極力小さくまとめたいのだけれど、あまり断面を絞り過ぎると通気抵抗が増えて、屋根全体から均等に空気が集められなくなったり、ファンの送風量や耐久性にも影響を与える事になるでしょう。棟廻りの納まりやデザイン性を考慮しつつ、従来の棟ダクト断面積の2/3という大きさのものを試作しました。フェノールフォーム断熱材(t=40mm)でつくった箱をガルバリウム鋼板製の箱に納めて一体化するというもので、1ユニットをモジュールに合わせた長さ(910mm/1000mm)に設定しました。これを連結して1本の集熱棟ダクトにします。
懸念されたのは、ダクト断面を小さくした事と1ヵ所からファンに接続するというダクティング方法でバランスよく集熱空気を取り入れることが可能か?という事でした。これについては、金属加工の会社にお願いして工場が休みの日に全長12mのダクトを設置させてもらって、ダクト各部の通気状況の確認試験を行いました。
現在の陽のまど集熱パネルでも極力中央のパネルにダクト接続してもらうルールを設けていますが、これらは外付け棟ダクト開発時の試行錯誤の結果が反映されているのです。



昔、外付け棟ダクトが屋根上に並べられた状態を見ながら「このダクトの上面が集熱構造になっていれば良いのではないか?」と思ったことがありました。現在の陽のまど集熱パネルは、まさにそれを具現化したものなのです。
私が最初の外付け棟ダクトをつくってから26年が経ちました。このダクトが登場してからは小屋裏に設置する半円形棟ダクトはほとんど使われなくなり、こちらにシフトしていきました。施工が楽になるという事は、施工コストを下げる事につながります。現場の施工手間を1つでも減らせるようにする事は、私の設計のポリシーであり、陽のまどの部材にもしっかり受け継がれている考え方なのです。

