陽のまどの効能(その5)

ブログ味を究める

合同会社サンシャイン・ラボ 代表の松原です。

このところ局地的なゲリラ雷雨が多く発生していますね。東京などでは道路が川になってしまったり、いきなりマンホールの蓋が飛んで水が吹き出したりと凄まじい事になっていたようですが、こういう事は日本中の何処で起きてもおかしくないくらい不安定な気象状況なので、他人事と思わず、明日は我が身と思って備えておく必要があると思いました。なかなか出来ませんけどね。

夏の陽のまど

「陽のまどの効能(その5)」は、夏の働きについてです。
これまでの効能は主に暖房シーズンに関するものが多かったですが「夏はどうなるの?」と思うのは自然な流れ。
夏の陽のまどは↓のような働きをしています。

合同会社サンシャイン・ラボ ホームページより
陽のまど 夏の働き

夏の陽のまどは、夜に働きます。日が沈んで外気温が下がるとファンが涼しくなった空気を室内に取り入れ、床下に送られた空気は、土間コンクリートに「蓄冷」されながら床下全体に広がって行きます。この動きを次の朝、集熱面に日が当たるまで続けて、冷熱を家の中に残します。建物の断熱性能にもよりますが、日が昇ってきてからの窓からの日射を遮っておけば、午前中いっぱいくらいはひんやり感を味わう事ができるでしょう。ただしそれを感じられるのは1階だけで、2階までは難しいと思います。何故なら「頭寒足熱」の回で説明したように冷気は下降し、暖気は上昇するので、床下の冷熱はどうしてもそこに留まってしまい、一方の2階には暖気が集まる事と屋根や外壁から熱の影響を受けて暑くなりやすいからです。ただ冷熱と言ってもエアコンがつくり出す冷気とは違って、あくまで自然な気温レベルのものなので、体調に影響を及ぼすような温度にはならないでしょう。過去には床下へ向かうダクトの途中から分岐させて2階の天井付近から涼風を吹き出すようにしたお宅がありました。建築当初は1階のみに涼風を送っていたけれど、その気持ち良さを2階の自分の部屋にも欲しいと娘さんが希望されたとの事で↓のように吹出口を設けました。残念ながらその効果については聞いていないのですが、寝苦しくない夜を過ごして頂けているようならば嬉しいです。

涼風用ダクト

夏を快適に過ごすために

夏の昼間の陽のまどは、何も働かないので普通の家と変わりません。下手に動かしたら100℃近い高温の空気が室内に入って来ることになるので、熱い時間帯はじっとしているに限ります。その間をいかにして快適にするか、陽のまどの有無に関係なく、建築的な工夫で対処することになるので、その事例をいくつか紹介したいと思います。

1.熱気を抜く。屋根の断熱を高める。

以前に紹介した実測中の建物のデータです。
ご覧いただきたいのは1階温度とロフト温度ですが、4月の頃はその差はほとんどありませんでした。

Sukura3 2024.4

しかし6月になるとロフトの温度が1,2階から離れて3~5℃ほど高くなっています。

Sukura3 2024.6

まだ気温も日中で27℃くらいの頃にロフトは33℃まで上がっていました。考えられる要因として以下の2点が挙げられます。

A.建物上部に排熱のための窓や換気口がないので上層部に集まった熱気が籠ったまま

ロフトに窓は有るので、これを開ければ熱気を抜くことは出来る。しかし日常的に開閉操作が出来るかは???

籠る熱気を抜くのは、最も合理的な夏対策でしょう。ただし窓は人が居てはじめて開閉できるものなので、高温になったら自動的に換気扇が排熱するような仕掛けを備えておくと良いと思います。

B.屋根の断熱性能が不足気味で、日射の影響を受けている

本建物の断熱性能はHEAT20 G1レベル。屋根にはフェノールフォーム断熱材90mm厚が施工されている。過去に同仕様の断熱性能を持つ建物のロフトに8月中旬の午前9時頃に入った事があるが、まだ気温が上がりきっていない時間にも関わらず汗だくになった。同日の午後2時頃に別の建物のロフトに入ったのだが、そこでは汗が噴出すような暑さを感じなかった。その時の外気温は36℃で日射しの強い真夏日。この建物には屋根にウッドファイバー断熱材が240mm充填されていた。後者もHEAT20 G1レベルの建物であったが、屋根の断熱に熱容量の大きい木の繊維断熱材を使用する事で、熱の伝わる時間を遅らせて、室温上昇を抑えていた。

上記については、実際の温度を測っていないので、あくまで個人的な感覚の話ですが、断熱材の種類や特性によって体感に差が出るものなので、熱伝導率とか熱抵抗値といった数値だけに囚われず、どういう環境を望むかによって材を使い分けるべきと考えます。

2.建物や屋根の形に注意

建物や屋根の形は自由ですが、夏の日射をもろに受ける形は避けた方が良いと思います。例えば南向きで緩い勾配の片流れ屋根は受熱面積が大きくなるので、日射の影響をもろに受けて暑くなりやすいです。緩勾配屋根は、冬の集熱にも不向きなので、ある程度の角度(3寸勾配以上)を確保して南北に振り分ける切妻屋根が理にかなっているように思います。また屋根を葺く材料によっても室内への熱の伝わり方は変わります。冬の集熱を考えると金属屋根だけを選択しがちですが、夏の防暑対策としては昔ながらの瓦も有効です。「青トラ訪問記-2」で紹介したように「瓦葺き+集熱パネル」という設置方法があるので、こういう屋根も良いのではないでしょうか。

瓦屋根+集熱パネル

3.屋根通気層の高さ

現在の建物では屋根材や外壁材の内側に通気層を設けていますが、この通気層の高さも熱の伝わりを抑えるのに効果があります。以前、ある工務店の2人の社員さんが、ほぼ同時期に自宅を新築しました。屋根の野地板下の通気層の高さがA社員宅は30mm。B社員宅は90mmと大きく差がありましたが、出来上がって夏を迎えた時に後者の方が明らかに暑くなかったです。ここでも温度測定をしていなくて感覚的な話で恐縮ですが、通気層高さを大きく取る事で屋根面から室内への熱の伝わりを軽減できる事が理解できます。また通気層内の抵抗が少なくなるので熱気が籠りにくくなる事も温熱環境改善に貢献していると思います。

陽のまどの集熱パネルの設置方法には、下図のように屋根通気層から吸気する方法があって、大体7~8割の現場でこの納まりが採用されています。野地板下の空気を取り入れるので冬の集熱時には温度の立ち上がりが若干遅いというデメリットがありますが、夏場の夜間に屋根内部の熱を排出して冷ます事ができるというメリットもあります。冬の集熱も特に問題となるほどのマイナス要素ではなく、何より施工がしやすいというのが選ばれる理由になっています。

屋根通気層の大小

4.風を通して夏を気持ちよく過ごす

ここまでは屋根からの熱の伝わりを減らす方法について事例を交えながら説明してきました。一般に涼を得る手段としてはエアコンによる冷房が主かとは思いますが、建築的な工夫が施されていれば冷房負荷が減って、より効率よく室温を下げることが出来るでしょう。エアコンの風も人に当てるのではなく、壁や天井といった周壁の温度を下げるようにすると体感が良くなると思います。ここ最近の夏は尋常ではない暑さなので、熱中症予防のためにもエアコンを上手に利用すべきと思いますが、可能であれば自然の風を通したいですね。外は恐ろしく暑いのに窓を開けて通風なんて…と思われるかもしれませんが、場所や状況によっては良い風が通ることもあるので、最初から無理と決めつけない事だと思います。京都の古い町家に見られる2つの中庭の温度差で風をつくり出す仕掛けなんて素晴らしい工夫ですよね。風をコントロールできるようになる事も「おいしい建築研究所」の重要な研究テーマなので、良い風をいかにして家の中に導き、夏を気持ちよく過ごせるようにするかを引き続き考えていきたいと思います。

京町家の坪庭
京町家の坪庭