陽のまどの効能(その7)

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合同会社サンシャイン・ラボ 代表の松原です。

このところ連続して陽のまどの効能をお伝えしてきましたが、7回目という事で一応最終回です。これで陽のまどが終わるという意味ではないですし、ネタ切れという事でもありませんが、ホームページ上の「陽のまど」の解説文を補足するために書き始めたものなので、今回で一区切りになります。

新築にもリフォームにも

陽のまどの最大の特徴は、リフォームに対応できる事です。他の空気集熱式ソーラーは新築を前提としたハード構成なので、リフォームにも使えない事はないでしょうが、かなり無理する事になるでしょう。
私がリフォームへの対応に拘った理由は「陽のまどの効能(その2)」で書いたように自分自身がヒートショックで心臓発作を起こした経験があるからで、その時から新築であっても既存住宅であっても太陽熱を利用してヒートショックを受けない安全な温熱環境の家を提供したいと考えて、これに対応できるハードをつくってきました。これまでに30件以上のソーラーリフォームの実績がありますが、もっともっと増やしていきたいと思っています。そのためには私一人の力では限りがあるので、一緒に取り組んでくれる仲間を募集中。新築よりも感謝されることが多いソーラーリフォームには、建築人としての遣り甲斐があると思いますよ。

制約が多い既存住宅

前にも書きましたが新築で暖かい家をつくるのは難しい事ではありません。ゼロからのスタートであればお日様に向き合う形で計画が出来ますし、建物の仕様についても予算の範囲内で自由に選択ができますが、既存住宅は色々と制約を受けるので、これにソーラーを組み合わせて暖かい家にするのは、容易な事ではありません。
・建物がどちらを向いて建っているのか?
・建物にしっかり日が当たる部位はどこか?
・周辺に日陰をつくる建物や樹木、山などはないか?  など
その条件によってソーラーハウスとしてのアプローチの方法が変わります。新築の場合も同じですが、まずは集熱が出来ないと話になりませんから、太陽目線で敷地と建物をチェックします。
陽のまどが「集熱パネル」を使用する理由は、建築と切り離す事が可能で、最低でも集熱パネルだけである程度の集熱量が確保できるようにするためです。極端に言えば屋根も壁も日陰の影響を受けるけど、庭先の一角なら日がよく当たるから、そこに集熱パネルを設置して建物までダクティングできればソーラーハウスとして機能します。もちろん限度はありますが、建築側の条件にフレキシブルに対応するために「集熱パネル」をつくりました。これについて語り出すと長くなるので、また今度お話ししますね。

庭先に設置した集熱パネル

次に集熱空気を送り込む先の床下の環境です。昔の家は今のようにベタ基礎ではく、土台に防蟻薬剤が塗ってあったりして、あまり健康的でない床下だったりします。そこに集熱空気を流すのは憚られるので、床下を利用しないで集熱空気を室内に広げる方法を考えなければなりません。「陽のまどの効能(その3)」で「頭寒足熱」の話をしましたが、集熱空気の広げ方がとても重要で、ただ部屋に吹き出せば良いというものではないのです。太陽熱で暖めた空気は、時には「熱い!」と感じる風が出ることもありますが、太陽が雲に隠れるとス~っと冷たくなってしまうので、温度が一定ではありません。その風を直接身体が受けていたら超不快でしょう。だから風を感じさせないようにしつつ「面」で足元が暖かくなるような仕掛けを施します。それが難しい場合でも「点」ではなくて「線」で風が出るようにして熱の広がりに配慮しています。これらは全て現場の状況に合わせて計画し、必要に応じて特注部材を用意して納めてきましたが、方法が一定ではないので経験に基づく判断が必要です。

既存金属屋根上に架台を組んで集熱パネルを設置
天井裏に角型断熱ダクトを設置して、これに集熱空気を送り込む
天井から線状に集熱空気が吹出す仕掛けを設けた

リフォームの場合は新築以上に予算の条件が厳しいので、その中で施主が不満に感じている部分を取り除いて、住み心地の良い環境を提供する事ができるかが、大きな課題になります。これは陽のまどだけで解決できる話ではないので、建物の設計者・施工者と連携した作業が必要です。陽のまどのハードは、シンプルでコンパクト。そして比較的安価で提供できるようにつくってあるので、上手に予算をやり繰りすれば「補助金」とかを当てにしなくても十分に導入できると思います。
補助金は原資が税金だし、一過性のものでしかないから最初の導入時には助かるかもしれないけど、年数が経過して機器の劣化で修理、交換が必要になった時には、恐らくもう補助金はないので、自腹でメンテナンスが出来なければゴミになるだけです。「持続可能な社会を目指すために」とか言いながら、その場限りのものが多くて、とても持続できる気がしないのは私だけでしょうか?

健康寿命を延ばすためのソーラーリフォーム

私は新築以上に既存の建物に陽のまどを使ってもらいたいと思っています。前述のように新築住宅を快適にする事は難しくありません。国も大手メーカーも「まずは新築から」とそちらに力が入っていますが、新築で家を持つことが難しい時代に入ってきているのも事実。親の代からの家があるならば、これに手を入れて住み心地の良い家にする事は悪いことではないと思います。また高齢化が進む中で子供や孫に迷惑を掛けたくないと思っている人は多いのではないでしょうか?かく言う私もそういう歳になってきて、この先の事をあれこれ考えるようになりました。
健康で長く、楽しく生きるためには、住み慣れた土地、住み慣れた場所で、安全な環境を整えて暮らすのが良いと思うのです。私が経験したヒートショックによる心臓発作などは、同年代であれば、いつなってもおかしくないリスクですし、若い人だっていずれは歳を取るのだから他人事ではない。地球環境問題も大切ですが、その前にあなたの住環境を穏やかなものにする事の方がもっと大切でしょう。これまで「陽のまどの効能」で述べてきた事は、新築のためだけのものではなく、既存の家こそかくあるべきだと思っています。

ソーラーリフォームの実施例

ソーラーリフォームする事は、技術的な難しさはあるものの、施主自身がその建物に対して長年不満に感じていた部分が明確になっているので、ある意味やり易いと言えます。ソーラーリフォームの実施例を1つご紹介しましょう。

【物件概要】
 所在地:静岡県磐田市
 構造:軽量鉄骨造2階建(工事範囲は1階のみ) 工事床面積:約35坪 築年数:25年
 家族構成:60代夫婦+犬1匹

【ソーラーリフォームの経緯】
25年ほど前に某大手ハウスメーカで二世帯住宅として建てた家ですが、両親が他界し、子供たちも巣立ってしまった今、定年を間近に控えた夫婦二人だけが住むには70坪の家は広過ぎです。どこか他所に土地を求めて引越しする事も考えましたが、住み慣れた場所の方が何かと落ち着くという事で、そのまま住み続けることにしました。ただし25年住んできて今更ですが、冬寒くて、夏暑い不快感を何とかしたいと思い、某大手ハウスメーカーにリフォームの相談をしたところ「夏は暑くて、冬は寒いものですから仕方がありませんなぁ」と言われてしまったとの事。本当にやりようがないのか?という事で私の所に相談に来られました。現地を見せていただくと確かに寒い。床はスリッパなしでは触れられないほど冷たいし、家の中でも温度差で風が吹く有り様。25年前ってそんなに古いわけでもないのに、これを良しとしているメーカーって何なんだと思いました。施主の要望は1階だけをリフォームして、使い勝手の良い、快適な環境にしたいとの事なので、知り合いの工務店に協力を要請して断熱改修を中心としたソーラーリフォームを行う事にしました。

改装前の外観
室内の様子

施主がソーラーの導入を希望されたが、屋根と2階は手を入れるつもりが無いとの事なので、壁面集熱を検討しました。既存の1階和室の外に犬走があるので、ここに10㎡以下のサンルームをつくることにし、その上部に既存バルコニーの手すり壁を利用して集熱パネルを設置角度60°で取付ける事にしました。↓

問題は集熱空気の流し方です。この家は床にALC版が構造体として張られており、その下は外部空間です。土間コンクリートも無いので床下を利用して集熱空気を回すことも蓄熱させる事も出来ません。

既存ALC版の上に直接床材が貼ってあるだけで断熱材が全くないので、床が冷たくて当然。このメーカーはALC版には断熱性能があると言って、こういう仕様を採用してきましたが、最近はALC版の上に断熱材を貼っているようなので、やっと床の冷たさに気付いたという事かな。

解体して分かったことですが、断熱材の入れ方も「え~?」って感じで、上の写真は玄関ポーチの凹部分にあたる外壁面と内部間仕切壁の断熱処理ですが、この場合なら間仕切り部分まで断熱材を入れなければ意味がないでしょう。
下の写真は、内装材を取ったら断熱材が寸足らずで大きな隙間が開いていた所です。これでは断熱しているとは言えません。この他にも「何だこれ?」という部分があちらこちらにあって、これらは現場の職人に知識がないからなのか、元々のメーカーの仕様がこうなのかは分かりませんが、解体に立ち会っていて段々腹が立ってきました。もし職人に知識が無かったとして、それがアップデートされていなければ、たとえ今時の断熱基準を満たす仕様になっていたとしても、このメーカーの家は寒いままかもしれません。

集熱空気の流し方

床下空間が利用できないケースはこれまでにもあったので、今回が特別な訳ではありません。まずは床の冷たさを解消するために既存ALC版の上を全て断熱することにしました。今回は集熱パネルが3枚しか設置できないので、対応できる範囲は限定されてしまいます。既存の1階には8畳と6畳の和室が続きで二間あり、畳部分は他より床下地が下げられているので、この段差を利用して集熱空気を流す事にしました。

ファンから吹き下ろされる集熱空気を床下にスムーズに流すために、どこかにぶつかって渦を巻かれたりすると嫌なので、断熱材で↓のボックスを手作りしてダクト直下に取り付けています。

風向調整ボックス

ソーラーリフォーム完了

思わぬサンルームの効果

ソーラーリフォームが完了してから実測を行いましたが、そこでサンルームがなかなか面白い働きをしている事がわかりました。

12/6の14時頃ですが、30℃を超えるくらいまで上昇していたサンルームの温度が急に下がっています。同時にリビングの室温が上がりました。これは朝からずっとサンルームに日を入れて熱を貯めおき、14時にリビングとサンルームの間のサッシを開けたためにグラフのような室温の変化が生まれたのです。陽のまどによる集熱+サンルームの熱でリビングは良い感じの室温になりました。↓は集熱運転中の床周辺の温熱画像ですが、足元がしっかり暖められている事がわかります。

サンルームの効果は冬だけではなくて夏にもあります。↓は今夏にお施主さんにお願いして計測させていただいたデータです。

外気温が40℃近くまで上がった7月末の温度の記録ですが、サンルームは気温と同じくらいまで上昇していました。本当は窓を開けて熱気を抜くと良いのでしょうが、留守にする事が多くて防犯上の不安もあるため閉め切りにされているので、かなり暑い部屋になっています。今回はリフォームをしていない2階の温度も測っているのですが、こちらも外気温に連動するように暑くなっていました。1階リビングは気温より2~6℃ほど低く推移していたので、外から家に入ると少しひんやりした感じを受けました。サンルームという内外の中間的な場所があると、いきなり外よりも穏やかな温熱環境が得られるようです。このような結果にお施主さんは大変満足されていますが、それは温熱の事だけでなく、近所の人が玄関からではなくてサンルームから訪ねてきてくれるという昔の縁側のような新しいコミュニケーションの場ができた事も嬉しかったようです。

この他にも色々な事例がありましたが、それぞれに思い出深いストーリーがあります。私たちは新築、既築に関わらずお客様の要望に寄り添う形でお日様と共に暮らす暖かい家を提供して行くつもりです。