空気集熱式ソーラーの役割

ブログ味を究める

合同会社サンシャイン・ラボ 代表の松原です。

お盆休み前の事ですが、浜松の工務店、スローハンドの森田社長とお話する機会がありました。森田社長は、むかし浜松でOMソーラーの加盟工務店であったマルモ中村住宅で営業マンとして働いていましたが、この会社が倒産してしまったので、マルモで一緒だった仲間とスローハンドという会社を立ち上げました。マルモ中村住宅は、OMソーラーの家をたくさん造っていたので、少なくとも当時の自分のお客さんに対してはアフターフォローをスローハンドとしてしっかり行ってきたとの事。おかげで今もお施主様との良い関係が続いているそうです。
そんな森田社長から伺った話ですが、30~40年位前にマルモ中村住宅で建てたOMソーラーの家で育った子供たちが、自分の家を建てる時期を迎えており、長年のお付き合いもあって声を掛けていただいているのだそうですが、打合せを重ねていく中で「空気集熱式ソーラーは必要ですか?」と尋ねると、多くは「不要」と答えるのだとか。長年その家に住んできて「OMがあって良かった」という感覚とか記憶がないという事なのでしょうか。理由がものすごく気になります。30年以上前のOMの家は、格好はいいんだけど、器の性能が低くてあまり暖まらなかった可能性はあります。その証拠に1994年以降に「フォルクスハウス」という企画型住宅を選ばれた方のご子息は、OMの効果を実感されていて「是非また付けて欲しい」と言われているそうなので、建物の断熱・気密性能がしっかり確保された上でのOMソーラーの家は、住まい手に満足を与えることができていたのだと思われます。
長い年月の間に人も建築も設備の価値観も、それらを取り巻く環境も大きく変化して行くので、このような事が起きるのも致し方ない事だと思うのですが、記憶に残らないというのは、作った側からすると物凄く寂しい話です。持続可能な社会とは、モノだけでなく人の心も続いていかないと実現しませんからね。この先10年後も、20年後も、50年後にも残っていて欲しいと願う「陽のまど」としては、今回の話を教訓として、それを踏まえたモノづくり、コトづくりをしていかなければと思いました。

こんな話を聞いてしまったので、お盆休み中に↓を改めて読んでみることにしました。この本はOM研究所が主催する「土曜建築学校」の講義録を元にシリーズ書籍として編集されたもので、本巻はOMソーラーの考案者・奥村昭雄先生が「パッシブデザインとOMソーラー」というテーマで講義をされた内容がまとめられています。OM在職中には「一度は必ず読むように」と言われていたOMのバイブルのような本なのです。

数年前の事ですが、ネットの○○○知恵袋に「OMソーラーってどうですか?」みたいな質問がされていました。それに対して回答していたのは、私が知らない建築家?だったのですが、その人の答えは「OMソーラーは過去の技術だ」というものでした。OMソーラーを原点としてこれまでやってきた私としては「この人はOMの何を知っているんだ」という少し怒り交じりの感情と「世の中の評価はこういう事なのか」という寂しさみたいなものを感じました。私は、30年前にOMソーラーと出会って「自分が理想とする家づくりの形を見つけた」という気持ちになりました。以来、OMソーラー的な考え方は人と建築と環境にとってすごく優しくていいものだと思っています。社会的な有用性で言えば太陽光発電よりも価値が高いとも思っています。「OMソーラーは過去の技術」と言われるならば、それよりも良い技術って何があるでしょう?太陽光発電でしょうか?でも「ブームは去った」みたいな言われ方をしていて、電力会社の売電価格や補助金の減額などもあって、一時の勢いは全く感じられませんが、これも「過去の技術」としてしまうのでしょうか?新しいものばかりに飛びついて食い散らかしていくようなやり方では、持続は不可能でしょう。OMソーラー的な考え方は、設備的な目だけで見れば時代遅れな部分はあるのかもしれませんが一番重要なのは、太陽は昔も今も変わらず照り続けているという事。そして地球に住むすべての生き物(超深海に棲む生物を除く)の命の源であるという事でしょう。これを無視して人類が生きていくことは出来ないのです。16世紀のイギリスの哲学者、フランシス・ベーコン(1561-1626)は「人は従う事によってしか、自然を支配することができない」と言ったそうですが、まさにその通りだと思います。話が逸れかけましたが、太陽と言う人類にとって必要不可欠なエネルギーを、上手に利用するための人の知恵に古いも新しいもないと思うのです。お盆休み中に改めて読んだ「パッシブデザインとOMソーラー」の中で奥村先生が、OMソーラーのエネルギー効率の話をされてきた最後に↓のことを言われました。

これまで数字の話ばかりしてきましたが「それもあるけど、もっと大事なことがあるよ」と思っていることとして、室内環境の問題があります。実は僕の関心はここにあって、室内環境とは温度や湿度の問題だけではなくて、一番大事なのは健康的であるとか、気持ちがいいという問題なんですね。また、家が長持ちするか、家のためにいいかということもあります。そういうファクターの方が効率の問題にましてもっと大事な問題です。

奥村先生の事務所には私も何度かお邪魔させていただいた事があって、奥様のまことさんのお昼ご飯をご馳走になった事もありましたが、↑の話を先生から直接聞いたことはありませんでした。ですが先生が一番大事な問題としていたこのソーラーの役割については、私が陽のまどで実現したい暮らしの環境と一致していると勝手に解釈させていただいて、これからも前向きに取り組んでいこうと強く思った次第です。